2008-06-22

オチは特にない - トートロジーは恒真である

「世の中について、隠された真実を教えてやるよ」

「聞こうじゃないか」

「世の中ってのは、実はな――50パーセントが中央値以下の人間で出来てんだぜ」

「……真実だな」

「だろ」

「自明であって隠されてないが」

「いやいや、意外とそうでもねー。俺の見る限り、世の中の80パーセントくらいの人間はこれを見落としてるね。んで気づいてる奴のほとんどは、上位20パーセントと下位20パーセントの中にいるんだ」

「興味深い観測なことで」

標準偏差(プラマイシグマ)以内の連中はいつも自分が普通だと思ってて、世の中みんな平均値と中央値でできてると思ってやがるんだぜ? 反吐が出るっての。みんなで決めたらそれでいいなんて、クソの役にもたたねえ」

「ふむ。まあそう結論するとアローの不可能性定理なんだが。
 ――それで? 君は上位2割なのか、それとも下位2割なのか」

「分かってて聞くんじゃねーよ」

「上位なら、そんな愚痴は吐いていない」

「まったくだ」
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2008-04-21

オチは特にない - 抱きしめられたい病 ――あるいはラブコメを模索して迷走する私について

「そもそもですねー!」

「あん?」

「オンリーワンが元々特別なのは、自動的にナンバーワンだからですよ?」

「またずいぶん懐かしい……」

「ていうか! オンリーワンなら競争すらないんですよ?」

「そりゃそうだが」

「もうやりたい放題じゃないですか! 独禁法が公取委ですよ?」

「落ち着けどうした」

「…… docking whore が courtly ですよ?」

「語彙の選択に恣意性を感じるぞー」

「まあでも、結局需要がなかったらただのゴミなんですけどね。オンリーワンなんて。
 そこんとこ無視しちゃうあたりがあの歌の限界ですよね」

「あー……」

「なんです」

「なんか、嫌なことあったかお前」

「ええ……、まあ、正直」

「ならそう言えバカ」

「……はい」

「ほれ、こっち来る」

「……はい」
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2008-01-04

オチは特にない - 続・宦官の道化は笑わない

「で、彼女作んないの?」

「や、だから作りませんてば」

「っていうか、なんで作んないの?」

「なんでと聞かれましても」

「性欲ないの?」

「いやそれはある」

「自分に自信ないの?」

「まあそれはない。……じゃなくて。
 むしろなんで作りたいの?」

「いた方が楽しいじゃん」

「や、知らないから」

「だから作れって言ってんの!」

「えー」
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2007-10-14

脆弱な静寂の中で

何もない部屋が好きだ。

それも、とびっきり殺風景なやつ。
理想を言えば、机も椅子もカーテンもない直方体の空間がベストだ。

そういう場所に、未読の小説を何冊か積んで寝転がる。
カーペットなんて余計なものは置きたくないから、部屋はいつも畳敷きだ。
昼間なら蛍光灯だって要らない。直に差し込む光が柔らかい。

誰もいない。

視界の中で動いているのは、秋晴れの空に浮かぶ雲くらいのもので、
耳に入ってくるのは、少し離れた大通りの喧騒くらいのものだった。

そっと目を閉じる。

真新しい畳の匂いを大きく吸い込んで、吐き出した。
喧騒は、気がつくと遠ざかっている。

誰もいない。

ここにいるのは私だけで、
それを知る者は一人もなく、
私が去れば、何の痕跡も残らない。

これが私の居場所だ。
誰も知らない、私の居場所だ。


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というわけで、諸々の事情により引っ越した。

新しい部屋に荷物を運び込むのはいつも気が滅入る。
本当、捨てられるものなら机も本棚も処分したいのだよな。

ああ、私の何もない部屋が消えていく……。
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2007-09-29

まぜた。

あまりにも汚いトイレに、どこかで辟易していたのだと思う。

新発売、とどかどかと陳列された洗剤を手にとったのは、我ながらごく自然な流れだった。
なんというか、まっくろくろすけもかくや、という黒ズミぶりなのだ、うちの便器は。あのにっくきカビ共、今度こそ撃滅してやります、とばかり私は意気込んだ。
それが確か、先々週のこと。


……だった、のだが、話は唐突に今日に移る。

忘れていたのだ。

意気込みとか言ってたのはどこの誰ですか、と独りで突っ込みを入れたが、しかし、新しいものを試すのは楽しい、というのが私の性分だ。いざ使う段になったら、調子に乗って用法に書いてある1.5倍くらいの分量を使った。

うん、塩素くさい。

我ながら意味不明なところに満足して、ついでにいつも通りに掃除しようと思い立った。
手始めに便器蓋あたりをやっつけようか、とトイレ用掃除シートを手にとる――。


――そして、話はもう少し先に移る。
掃除を終えてしばらく後、用を足そうとした時だ。

微かに、それが臭ってきたのは。

洗剤は効果抜群で、随分と白くなった便器はいいのだが、それにしてもなにやら塩素くさいだけにしては鼻を突く、嗅ぎ慣れない臭いだった。
換気扇つけておきますか、とそこまで考えて。

嫌な予感がした。
既に予感ではない、という矛盾した予感だった。


あの洗剤。塩素系だ。

まぜるな危険、塩素ガス。


しかし、確かにおなじみ「まぜるな危険」の表記はあったが、酸性の洗剤を混ぜた覚えがない。というか、塩素ガスといえば、第一次大戦で大活躍した非人道的兵器の雄っていうか、要するに化学兵器である。チキンの私が他の洗剤を警戒しないわけがないがないのだ。ならどこに混ざるものなどあったか。

と、そこでもう一度嫌な予感がした。

慌ててトイレを飛び出る。
冗談、思わず呟いてしまった。

息を止めて再突入、トイレ用掃除シートの箱を引っつかんでもう一度飛び出る。被疑者、確保――! ていうかこいつしか疑うものがない。とりあえず換気扇をつけて、箱を眺めた。除菌とか消臭とかミントの香りとかどうでもいいことが色々書いてあるが、例の「まぜるな危険」はどこにもない。はずれ、だろうか。

しかし。疑念を捨てきれずに成分表示を眺めて、見つけた。


液性。弱酸性。


じゃくさんせーぇ♪ と、何かのCMのフレーズが頭をよぎった。

脱力しながら、私は頭を抱えた。


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考え直すと恐らく、塩素系の洗剤を流すのと一緒に、弱酸性のシートも流してしまったのが祟ったのだと思う。一歩間違えたらもっと盛大に塩素ガスっただろうと思うと落ち着かない。
いやはや、人生まさか自分が「まぜるな危険」を混ぜる日が来ようとは思わなかった。というか人生、まさかトイレで終わりに近づくとは思わなかった。

なんか今月こんなのばっかだよ、全く。

自覚症状(咳とか吐き気とか)が何もなかったこと、シートの側に警告表示がなかったことから、特に何も処置しなかったが、塩素ガスは本気でやばい。私と同じ間抜けをやらかすひとがいたら、つべこべ言わずに病院行くことをお勧めしておく。一応。
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